千本ゑんま堂の風祭りへ



 昨日の雨も上がり、午後からは薄日も射してきた日曜の夕刻である。早めに夕食を済ませ、Hiビジョンで18時から放映される『龍馬伝』を観終わってから、千本ゑんま堂で開催中という「風祭り」の様子を見にぷらぷらと出掛けた。梅雨のむしむしとした空気を吹き払う風が肌に心地よい。




 この寺は、都の3大風葬地のひとつである蓮台野の入り口に当たり、現在の盂蘭盆会に繋がる「精霊迎え」の根本道場として、閻魔様に縁の深い小野篁が創建したと伝わる。篁の遺風を偲ぶ「風祭り」では、七夕に因んで“梶の葉祈願”が行われるほか、風を捲き起こしながらあの世とこの世を行き来したという開基に因んで、16日の閻魔様の縁日に合わせて風鈴供養も行われる。“梶の葉祈願”とは、古来、七夕には梶の葉に願い事を書いたという、古式ゆかしい風習の名残である。
 ゑんま堂の入り口には御祈願の梶の葉が吊るされ、参道には笹の葉があしらわれている。堂内にはたくさんの風鈴が心地よい音を立てていた。



 ご本尊、閻魔法王像はこの風祭りの期間中開廟、ライトアップされている。元は定朝作の像が祀られていたそうだが、応仁の乱で焼失。現在のご本尊は1488年に再建されたものだという。司命・司録を従え、この世あの世の無辺の広がりを支配するどっしりとした閻魔様は、しかしながら不思議と、怖ろしさより親しみやすさを感じさせるような温かみのある眼差しなのである。美しく光る両の眼は琥珀、かっと開いた口許から覗く舌は香木の伽羅だそうだ。
 因みに、本堂と狂言堂は、昭和49年の不審火で焼失している。幸い「面」が残ったことから舞台を現在の篁堂に移して、3大狂言として知られる念仏狂言が再興されたのだそうだ。
 

 日曜とはいうものの初日でも最終日でもないため参拝者も数える程で、お手伝いの方に鐘楼の脇にある梶の木のところまで案内してもらった。
 途中には国の重要文化財に指定されている「紫式部供養塔」がある。1386年、紫式部の成仏を願って圓阿上人の勧進により建立したと伝えられる十層の石塔で、昨年修復がなったばかりの清々とした姿である。



 途中からは庵主様がご案内下さった。
 篁堂には、開基と伝わる小野篁の像が祀られている。中央の地蔵菩薩の左側、冥界と行き来した時の様子そのままに、風に煽られた袖が翻る立ち姿である。立像で袖の播き上がった像は珍しいのだそうだ(やはり篁所縁の六道珍皇寺の像も立像のよう)。

 
 18時30分から受付を始め、45分から始まるという法話と聞香、梶の葉祈願のイベントは、今日は参加者がなかったとか。庵主様のお心遣いの冷たいお番茶をいただき、篁を偲ぶかのように捲き起こった一陣の風が風鈴を鳴らすかそけき音に送られながら、家路についた初夏の宵であった。