夏帯と博多帯



 あっという間の1ヶ月だった。父が急に体調を崩して検査入院し、6月下旬に予定していた上洛は取り止めに。代わりに、連れ合いの出張に乗じて6月上旬、私が見舞いがてら東京へ向かい、1週間弱滞在してきた。
 東京では両親とゆっくり過ごしながらも、久々に新宿に出掛けたり、父がデイケアで留守にした日には母とデパート歩きもし、また浴衣用の帯結びの練習をしたりと、盛り沢山に有意義な滞在であった。
 京都に戻ると、噂に聞く「草喰なかひがし」へのデビューも果たした。
 気付けばブログからすっかり遠ざかり、早ひと月近くの日が過ぎていた、という次第。


 今日は天神さんの市の日。夏越の祓の祭も併せた「夏越天神」で賑わう“はずだった”日である。というのも、ワールドカップ一次リーグ突破を賭けた日本×デンマークの試合が早暁3時30分キックオフ、平均視聴率30%とあっては、今日は『使い物にならない』人も多かった模様。。初天神、夏越天神、終い天神はそれこそ人をかき分けるような人混みになるのが通例ながら、今日ばかりは普段と同様の人出に留まった。


 いつもの骨董屋で店主のお兄さんと暫し歓談後(この店は境内への途中にあるので)、茅の輪をしきたり通りに左・右・左と3度潜り、今日はお賽銭をはずんでしっかりお参り。山門では昨年同様、たくさんの人たちが自宅用の小さな茅の輪を編んでいたが、今年はパスして早足でオオヤコーヒさんへ駆けつけ、豆を購入。後はゆっくり露店巡りである。


 今日は普段と違って焼物の骨董には目もくれず、ひたすら帯を見て歩いた。お目当ては浴衣に結ぶ夏帯。古着屋も多数出ているが、新品を安く並べている店が狙い目だ。
 一ヶ所でひとつ名古屋帯の目星を付け、他を当たっていると、新品の博多半幅帯の出物を見つけた。正絹、「博多織工業組合」の札付きで2,500円だったが、折皺が多少あったので何と1,500円にまけてくれた! ベージュに茶と黄緑の折柄のもので、どんな着物にも馴染みの良い一本だ。
 それはそれとして、目的の名古屋帯を探してなおも歩く。良いものをそれなりの値段で商っている店でいろいろ見せて貰うが、今日の私の財布のひもは固い! 裏手の方までぶらぶらと歩いていると、さっきの高級品を扱っている店に居合わせた女性客に話し掛けられた。「いえ、あちらでは買いませんでした。別の店でひとつ見ていたものがあるので……」と話すと「どこのお店ですか?」と尋ねられ、簡単に説明したものの露店の場所は分かりづらい。ほどなく私も踵を返して戻る道すがら、彼女を見つけて「私もその店に戻るので、よかったら御一緒に……」と同道することにした。
 その店は、何気ない佇まいながら意外な掘り出し物がある“当たり”の店だった。同行した女性も気に入った一本を見つけ、私は先に目星を付けておいた帯を手に取って、咄嗟に「こちらの方をお連れしたんですから、安くして。。」と値引き交渉。どちらも6,000円の帯だったが、「それじゃお二方とも5,000円で」ということになり、二人揃ってめでたく購入。後刻母に話したら、「(関西育ちの)私ですらそんな交渉できない! あなたすっかり関西人ね……」と呆れられた。そりゃあそうでしょう、天神市に通って早1年半。だてに散財してきたわけじゃないんですから。
 共にお気に入りの帯をゲットした女性は、はるばる仙台からいらしたそう。「それじゃ、どうぞお気を付けて。。」と別れを告げ、袂を分かった。


 名古屋帯の方は、金茶の地に少しの紺と緑、金・銀糸、それに織柄で夏草をあしらった品の良い一本。帰宅して試しに結んでみたら、博多も名古屋も大層結び易く、顔映りの良い品で大満足。
 お蔭様で、今日も楽しい買い物ができました。。