世界で一番暮らしやすい「外国」


 ブラジルは、日本人にとって世界で一番暮らしやすい国、と言われる。それは日系移民の歴史に負うところが大きい。彼らが持ち込み、育んできた日本食材の豊富さや、長い時間を掛けて培ってきた日本人をリスペクトする風潮の上に生活できるアドバンテージは、他国にはない独特のものだ。しかも、会社には日本食材の取り寄せに係る補助制度もある。これは近隣アジア諸国や欧米各国への駐在にはない恩恵だ。

 初めての海外赴任先がブラジルと聞いた時には、「……何でよりによって地球の裏側?!」と思わなくもなかった。駐在の暮らしぶりどころか、ブラジルについてほとんど何の知識も持ち合わせていなかった私にとって、日本から“地球半周分”という隔たりの大きさばかりが重く圧し掛かった。
 そして1年半。蓋を開けてみれば、食材が手軽に手に入る、差別がない、日系人のコミュニティーがある、気候は良い――他の国での生活経験がないので比較はできないが、確かに『外国暮らし』の不便さや辛さを感じさせられるシーンは少ない。

 逆に駐在の“良いとこ取り”だけさせてもらっている感すらなきにしも。。現地通貨で支払われる給料は「残しておいても持ち帰るのは大変だから。。」と言い訳にもならない理由を付けて、ほとんどが可処分所得となる。家賃や社会保障費も多くは会社持ちだ。サンパウロ州だけで日本の国土ほどもあるという広大なブラジルだけでも、自然・歴史遺産ともに見るべきものは多く、ちょっと足を伸ばせば南米各国から北アメリカ、カリブなど、休暇に訪れる場所に事欠かない。駐在というのは在外期間中ずっと海外旅行してるようなもの、っていう不思議な感覚があって、そのフットワークをもってすれば、距離的には日本からとさほど変わらないヨーロッパですら、わりと気軽に出掛けられるように思われる。
 そして、日本ではまず経験できない専有面積の広い住居での暮らし。部屋を調え、客を招き……日本に暮らしていたら“自分とは関わりのない別世界の出来事”が、今ここでは『現実』だ――。


 今日は割合暖かな日になった。それでもまだ長袖で、冷えた室内でじっとしているとウールの羽織物も必要だけど……。そして、やにわに黒雲に覆われたかと思うと、この春初めての雷雨となった。驟雨が遅れ馳せな雨季の到来を告げている。湿潤な空気が懐かしく、静かで落ち着いた午後のひとときが流れていく。