『利休にたずねよ』


利休にたずねよ

利休にたずねよ


 久しぶりに書籍について。
 この本、千利休切腹の場から書き起こし、次第に時を遡りながら、利休と彼を巡る人々についてのエピソードを重ね、その中から利休の人と"なり"、そして極めんとした茶の世界を描き出そうとした作品である。茶道の心得のない連れ合いはストーリーを追って読んだと言っていたが、私はエピソードを彩るお茶の世界にどっぷり浸る思いで読み進めた。
 

 何が面白いって、茶道具、茶室、しつらえ、料理・菓子、そして茶事の事細かな描写が、実に興味深い。久しく離れていた茶道の面白さを再認識させられる思いであった。
 亭主の「心入れ」とは斯くあるべきか、と感心させられ、道具の見立てや茶室のしつらえについて、脳裏にイメージを描きながら考えさせられた。


 茶道は総合芸術と言われる。客をもてなす、あるいは茶を喫するという目的に連なる、ありとあらゆることを極めた先に成り立っているからだ。手前はお茶を点てるのみならず、茶事ともなれば事前の準備から始まり、迎え付から炭つぎ、料理の持ち出し、中立ちから呈茶……分刻みのタイムマネージメントが必要になる。そして書画(軸)・工芸全般(焼物・塗・竹製品・鋳物・指物・袋物……)・生け花・料理、果ては建築に至るまで、驚くほど多くの分野に亘る研鑽が必要とされる。
 茶の心得として忘れてならないもうひとつのキーポイントが、『一座建立』――主客一体となって、一期一会の出会いを共に築き上げる、という心映えだ。
 不肖、お茶の浅い私には、究極お茶の世界はそのふたつであるように思われる。その"たったふたつ"を極めんと、お茶をやっている人たちは皆、一生掛けてお稽古に精進するのである。


 ちょうどこの本を読み終わった日、午後のお茶にアイスミルクティーを淹れた。大量の茶葉を30分掛けて少量の湯で蒸らし、冷たい牛乳と合わせて作る。その時、(さしずめ利休なら……)と考えて、ほんの少しだけ手間をかけ、美味しく仕上げる工夫をした。そういう、日々の何気ない物事に沁み入ってくる"深さ"のようなものが、この本に描かれている世界にはある。