オーロ・プレットの記憶



 9月の第2週の週末を利用して、私たちはミナス・ジェライス州にある世界遺産の町、オーロ・プレットを訪れた。サンパウロから空路1時間強、州都ベロ・オリゾンチから車で2時間の町。コロニアル建築の街並みも美しい、小ぢんまりとした坂の町だった。


 送迎を頼んだ現地旅行社のモトリスタ(運転手)は、片側1車線、中央分離帯も無いカーブの多い道を平均120km/hで飛ばし、前の車に追いつくたびに追い越しを掛ける。対向車線をやってくる車も同様だ。このペースとスリルを一度経験すると、“荒い”と思っていたサンパウロのドライバーすらやけにおとなしく思える。手に汗握りながら(途中からくたびれて居眠りしてたけど)2時間弱、「市街地に入った」と聞かされる頃には精神的に参りそうになっていた。辺りを見廻してみたが、もうひとつピンと来ない。それらしい街並みも目に入らなければ、景観も拓けない。そして車はおもむろに中心部の広場に入り、「到着」と告げられる。宿はそこから道一本下手だ。ひとまず荷物を置いてから、徒歩での散策に繰り出した。


 実際に自分の足で歩き始めてみてようやく、町の良さが分かってきた。市外へ抜ける道は、東西に広がる市街地のど真ん中から北側へ伸びている。この道を入ってきても、特徴ある街並みは目に入らないわけだ。観光客で賑わう市街地は、ほぼ全域が石畳で覆われている。細い街路の両側にはカラフルなコロニアル様式の建物が軒を連ね、山間部の起伏の多い土地を美しく彩っていた。市内に23あるという古い教会が、街並みにアクセントを添えている。18世紀初頭から金の集積地として栄えたこの町は、1982年に世界遺産の指定を受け、電柱も電線も埋設されているため、往時のままの景観がそのまま保存されているという。


 観光ルートの主要ポイントは主に教会だ。バロック様式の装飾も美しいあまたの教会を訪ねながら、旅人はひととき18世紀の植民地に身を置く不思議を体験する――のだが、クリスチャンでない私たちは程ほどにして、絶好の日和の中、石畳を踏みしめながらただただ街並みを追い、オープンテラスのレストランに足を留めてショッピ(生ビール)で喉を潤しながら、古い町を抜ける風が肌をなでていく心地良さを愉しんだ。


 初日の夜はミナス料理で腹ごしらえをしたあと、通りすがりにライブがあることを知ったカシャーサリア(バーみたいな所。カシャーサというサトウキビから作る酒を楽しむ店)で春の宵を楽しんだ。二日目の夜は、やはり通りすがりに室内楽のシリーズが開催されることを知り、10へアイス(500円程)で1時間半、弦楽にフルートを加えた4重奏の優雅な音色が古都の夜に華やぎを添えてくれる一幕に、心地よく身を委ねた。

  ◆カシャーサリア 『Bardobeco Cachaçaria』℡:31−3551−3213
  ◆コンサート会場  カルモ教会に併設の『Museu do Oratório』℡:31−3551−5369



 宿泊は足場の良さを考えて、ガイドブックの筆頭に載っていた『ポウサーダ・ド・モンデーゴ』。展望の利く部屋を取ったのでちょっと割高だったけど、向かいの山並みが見えてそれなりに開放感はあった。ただし、目の前が2番目に大きいプラッサ(広場)になっていて、ここには特産の石鹸石を使った土産物の青空市が常設されているため、夜間でも照明が消えない。各部屋には遮光カーテンが設えられているので問題ないが、路線バスのポント(停留所)もあり、深夜まで人声や車の音が絶えない。でも、観光に便利な宿はどこであれいわば繁華街の真っ只中だから、騒音はある程度我慢するほかなさそう。ベッドメイキングやルームクリーニングなどは文句なしだったけど、フロントサービスは“あって無きが如し”。
 一方、メインストリートで見かけたポウサーダの中で最もまともな(欧米スタイルの)レセプションを構えていたのが、『ポウサーダ・クラシカ(Pousada Clássica)』(℡:31−3551−3663)。料金を尋ねてみたら、モンデーゴより手頃だった。部屋を見せてもらっていないので安易にお勧めもできないが、もし今一度オーロ・プレットを訪ねる機会があったら、ここに泊まってみようか、と思わせる“感じの良さ”だった。どなたか泊まったことのある方いらっしゃったら、是非感想を聞かせてください。。

  
  ◆鉱物博物館、さすがに見ごたえあり。お勧め!
  ◆オーロ・プレットに入る少し前、道路沿いに、 
   銅鍋をずらりと並べた店が立ち並ぶ小さな町がある。
   “ひとつ欲しかった”という向きには、足を留めてみる価値あり。。
  ◆ミナス料理のレストランはたくさんあるが、
   ガイドブックに載っているカーサ・ド・オーヴィドールは、
   生演奏こそないものの味の方は外れナシ。