古都リスボンを訪ねて④

 

 

 この日はリスボンを離れ、古の水源として、そして離宮のある美しい山間の町として知られる世界遺産シントラを訪ねることにした。そしてまたしてもトラップ(罠)に嵌る……。
 市街地の北西、セテ・リオス駅から15分に1本というシントラ行きの列車で終点まで行くことになる。折りよくホームに滑り込んできたのは『Mira Sintra Meleças』行きの電車。勝手に「Mira経由、シントラ行き、途中で切り離して一部はMeleças行き、という意味かしらん?」と考えつつ乗り込む。というのも、ガイドブックに掲載されている駅名や駅順も、その後改定が行われたものか必ずしも確かではないことが判明していたため。。そして見事に予想は外れ、この列車、単に『Mira Sintra Meleças』というシントラとは別の駅に向かう列車でした! シントラに辿り着くには一駅戻り、Agualva-Cacémというところで本線に戻って、さらに5〜6駅山の方に入り込むことになる。すっかり回り道してしまったけれど、何とかシントラ駅に到着。。


 事前に、電車と現地を巡るバスの一日券をセットにしたチケットがある、とは知っていたけれど、“どれだけバスを利用するかわからないしなぁ”と、列車の乗車券だけ購入してシントラのツーリスト・インフォメーションで尋ねてみたら、シントラの中を巡るのにバスは欠かせないことが分かった。結局シントラの中だけでも5〜6回は乗り降りすることになるため、バスの一日乗車券を購入。リスボンからシントラへエクスカーションに出かけられる方には、レール&バスのパッケージチケットを購入されることを勧めます。。



 まずは町の中心部に位置する夏の離宮、Palácio National de Cintraへと向かった。この日は水曜日。月曜じゃない。それなのに!! この離宮に限っては水曜が閉館日だった……。そこまで確認してなかった自分が情けない……。しかし、そんなことでメゲてなるものか!! ここは早々に切り上げることにして、ムーアの城跡に向かうことにした。バスでかなり山を登っていく。入り口のチケット販売所ではここのみならず、次の観光ポイントであるペーナ宮殿の入場券も買えるので、一括して購入しておくと便利だ。
 入り口から斜面を登ること、20分余り。8〜9世紀に遡るというムーア人の城塞址は、今は朽ち果てて、石組みが残るのみだ。しかし、ここから望む景色は素晴らしく、上ってきた甲斐もある。結構きつい登りだったけど、日が暮れる前にペーナ宮殿の観光も済ませ、市内に戻ってゆっくり食事もしたかったので、早々に山を降りることにした。勇んで駆け下りて――気付いたら、山の中ですっかり道に迷っていた! 途中いくつも分かれ道があったのだが、最初に見た案内表示の矢印が消え掛かっていて、どうやらそこを間違えて降りてきてしまったらしい。前にも後ろにも人影もなく、“ヤバッ!! 日が暮れる前に人里に降りられるかしら?!?”と泡を食ったものの、しばらく上っていったら降りてくる夫婦連れに出会い、この道はどうやらシントラの市街地へ降りていくらしいことが分かった。ペーナ宮殿に立ち寄りたい私は上方に位置するエントランスを目指さなければならないわけで、何とか必死で駆け上がって出口を見つけるに至った。結局入場してから1時間以上経過。汗だく。。


 


 ペーナ宮殿は思いの他感慨深く内部を鑑賞することができた。ここの何代目かの持ち主となったドン・カルロ1世は、アーティストとしても著名とのことで、アトリエには彼の手になる作品が掲げられている。そして各部屋の調度やダイニングにセッティングされた食器の類は一見の価値のあるものばかりだった。
 ヨーロッパの王宮や古城はいくつも見学してきたものの、何故かこれほど印象深い宮殿はほかになかった気がする。それぞれの部屋はわりとこじんまりしていて、ここで過ごした皇帝やその家族の息遣いが今だに感じられるようにも思われた。唯一、皇帝の居室でだけは、頂点に立つ者が負わなければならなかったであろう苦悩の片鱗が伺われるように思われたものの、居心地良さそうに調えられた寝室やバスルーム、書斎、応接室、ボールルーム……かつてここに暮らした期間、人々は幸せな時間を過ごしたのだろうと思わせる、満ち足りた記憶の残り香のようなものが心に残った。
 宮殿内外は素晴らしいアズレージョポルトガルタイル)の装飾が施されていたが、外壁などには通常見られる平面的なアズレージョのみならず、浮き彫り式のモールドタイプのタイルもあって興味深かった。


 


 ところでここで、珍しく日本からのツアー旅行者と出合った。何となく懐かしくて“どちらからですか?”と声を掛けたら、鳩が豆鉄砲食らったような顔で「あ〜! 日本からです」と言われ、“そんなこたぁ分かっとるわい!”と言いたいのをグッと堪えて“日本のどちらからですか?”と重ねて訊いたら、名古屋からのツアーだった。“あ〜観光の後、彼らのように日本に帰れるのならいいのに。。”と、ちょっと思った。


 麓まで降りてバスの時間を見計らい、ようやく遅めのランチにありついた。ポルトガルへ来て以来初めて出合った名物、鰯の料理だ! 鰯って庶民の食べ物だからか、単に巡り合わせの問題だったのか分からないけど、どこのレストランやカフェのメニューでもまだ目にした事がなかったのだ。ここに映っている鰯5尾、全部食べました。。