古都リスボンを訪ねて⑤

 
 


 今日はリスボン最終日。ゆっくり町歩きをして昨日までの疲れを癒しつつ、夜は初めてちゃんとしたレストランで食事をすることにして、予約を入れた。
 リスボンで忘れてならないのがファド。初日の夜、『クルベ・デ・ファド』でショーを見た。9時15分から、休憩を挟みながら15分程度のショーが、一晩に8ステージあるという。しかしここでのファドは多分に観光客用にショーアップされているように思われ、ポルトガル国民にすべからく愛されているというファドとは少し違うのではないか、という印象をぬぐえなかった。今一度、もっと庶民的なハウスで聴いてみたかったけど、今回はこれ以上無理はしないことにした。



 その代わり、歩行者天国になっている通りの真ん中に忽然と停まっていたクラッシックカーを改造した移動CDショップで、20世紀最高のファド歌手と言われるアマリア・ロドリゲスのCDを買った。後刻町を歩いていてアマリアの専門ショップを見つけ、な〜んだ、あの移動ショップ、この店の出店だったんだ、と納得。


 


 町には間口の小さな専門店がいくつもある。これは手袋専門店。欲しい色やデザインを告げると、職人がおもむろに箱から合いそうなサイズのものを取り出し、木製器具で手袋の指の一本一本を広げ、軽く粉を吹き込んでから、小ぶりな固いクッションの上に肘を付くように言われ、指先から付け根、そして手首まで、これでもか、というほど丁寧に嵌めてくれる。まるで“手袋たるもの、もう一枚の皮膚の如くにピッタリフィットしていてこそお洒落というもの!”と言わんばかりだ。



 町で見つけたもの、左はコニンブリガ焼。リスボン市内のみならず、シントラにも、おそらく本場近くのコインブラにも、専門店は多いだろうけれど、観光客にもお馴染みのオーロ通りにある『アルテ・ルスティカ』には、もう亡くなったという絵付けの名手「M・Correia」のコレクションが豊富に揃っている。この焼き物、日本の伝統工芸のように“ある程度のレベルにならないと一人前として作品を売れない”というわけではないようで、若い作家のものや絵の荒いものは安くで手に入る。しかし、繊細で美しいものを、という向きには、多少高くてもこの作家物がお勧めだ。
 そして右は焼き栗。秋のヨーロッパではポピュラーなスナックだが、ビックリしたのがその栗の大きさ! 日本の栗みたいな立派な大きさのものが美味しそうに弾けてこんがり焼けている。ひと袋買ったこの栗のお蔭で、夜ちょっとお腹が空いたとき、随分助かった。


 


今回は幾つもの老舗カフェを覗いてみた。左はロシオ広場にあるカフェ・ニコラ。右はカモンエス広場近くのカフェ・ア・ブラジレイラ。ここで飲んだコーヒーが一番美味しかった。


 


 夕食に備えて早めにホテルに戻ろう、と思ったところ、しばらく前から町の様子がいつもと違うことに気付いた。なにやらバンドの演奏や、旗を持った団体が幾つも歩いている。昼を過ぎて始まったこのパレード、実は『Manifestacão dos Professores』だそうで、どうやら教員組合のデモらしい。100人、200人程度かなと思ったこのデモ、何の何の!! 数千人規模の大きなもので、お蔭で午後一杯、交通封鎖の憂き目に遭い、市街地から抜け出すのにえらく苦労することになった。随分歩き回った末、ようやくタクシーの拾える場所まで出られ、まだ時間が早かったのが幸いしてわりとすぐに空の車を捕まえることができた。
 しかしまぁ……日曜、月曜を避け、水曜の閉館日にぶつかり、さすがにもう木曜には何の支障もあるまい、と思っていたら、年にそう何回も無いと思われるデモにぶつかるとは……今回のめぐり合わせには、もう唖然とする他無い。



 気を取り直して。。最後の夜は、コメルシオ広場のレストランでポートワインをアペリティフ代わりにリッチに食事。まあ一人だからさっと引き上げて、毎晩のようにガイドブックや本を持ち込んでカウンターで翌日の予定を練ったホテルのバーでひと休みし、最後に生演奏のピアニストのおじさんにリクエストしようとして、結局自分で弾くことになった。何年ぶりかでピアノを弾くことになるなんて思いもしなかったけど、良い思い出になった。
 お終いに、お世話になったドアマンのおじさんとのツーショットと、バーでのピアニストのおじさんとのツーショットを。。