古都リスボンを訪ねて⑥



 ポルトガル語だけど、発音に若干のクセの違いはあるものの、ブラジル・ポルトゲースで全く問題なかった。ブラジルではポルトゲースが話せるのが当然で、たどたどしいことに負い目を感じるシーンばかりだが、ポルトガルには近隣諸国から大勢の観光客が大挙してやってくる。そのうち、ポルトゲースを話す旅行者はほとんどいないだろう。だからホテルのみならず、商店でもレストランでも、果てはバスや市電の運転手までもが皆、英語を話す。そして日本人がポルトガル語を話すと、一様に驚かれる。ポルトガル語が通用する国が、もっと他にもあればいいのに。。


 さて、金曜の朝は7時15分に空港への車を用意してもらう手筈を調えていた。前夜はなかなか寝付かれなかった。いずれも大事に至らなかったとはいうものの、あれこれ思いがけないことが毎日のように起きて、少しナーバスになっていたのかもしれない。
 6時に起きて支度を済ませ、7時にチェックアウトを頼んで、レセプション脇に設えられた早出の客のためのエスプレッソとパウンドケーキ、オレンジジュースを少しお腹に入れた。


 空港にも早めに到着し、チェックインもスムーズに終わった。“あ〜、これでトラブルに追われた感のあるこの旅も、何とか無事に終わるんだなぁ”と思った――のは早計だった……トラブルはまだしつこく私の上に居座っていた!


 確かに時にはうっかりミスもある自分だと認めざるを得ないけど、さすがにこの年だし、最低限のポイントは押さえてるつもりでいたのに……。結論から言うと、出発ゲートを間違えた。座席番号があんまり大きく印刷されているので、てっきりゲートナンバーと思い込んじゃった。“いくらEU圏内とはいえ、パスポートコントロールが無いなんてこと、あるのかなぁ??”と不審には思ったものの、間違えたゲートの前にはCVC(ブラジルの大手旅行代理店)の揃いのバッグを持ったおばさんたちが座っていた――あまりに見事なトラップじゃないかぁ!!
 さすがに搭乗40分前になったとき、ゲート上の案内板に便名表示が出ないので不安になり、改めて搭乗券をよくよく見直して仰天した。ターミナルの端から端まで、小走りに駆け抜けて息を切らした先にあったのは……やっぱりパスポートコントロール、そして長〜い列!! 係員も見当たらず、とっさに手近の列の人に“わ、私の便、もう少しで出ちゃうんです! 入れてもらえませんか?!”と頼んだら、ここはEU圏内のパスポートを持った人の列だから隣へ行くように、と言われた。そして隣の列を見ると、ブラジルのパスポートを持った人たちが一杯並んでいた――。

 
 そんな風にして徹頭徹尾、スムーズに行かせてもらえなかった旅は、心中穏やかならぬままに何とかサンパウロ国際空港に辿り着いて、ようやく幕切れとなった。
 少し早めの便でボリビア出張からサンパウロ空港に戻ってきていた連れ合いの顔を見たとたん、何だか全部のトラブルを誰かのせいにしたい欲求に駆られ、かわいそうなことに彼に私の鬱憤の矛先が向けられたのであった。まあ、自然な自己防衛反応だったのでしょう。迎えのタクシーに乗ってしばらくして、問わず語りに旅の顛末を話し始めたら少しずつ落ち着いてきて、ちゃんと当たり前の感情も湧いてきました。
「一人旅に出してくれてありがとう。。」
って、ね。