ドアノー写真展へ


 晴れわたる空の下、まだ冷たい風の許、京都駅伊勢丹7階美術館「えき」で開催中の写真展を見に出かける。フランス人写真家、ロベール・ドアノー(1912年〜1994年)回顧展の、日本巡回展である。



 モノクロの写真には独特の魅力がある。モノクロ・プリントの作品の数々は、『焼き』の技術を併せ見るという意味で、一点物の美術作品として鑑賞すべきものだ。光と影の捕らえ方、構図の妙味、一瞬の邂逅、焼き込みで際立つ対象の存在感、艶と照りのある対象物の質感……。そういった要素が複合して、ひとつの作品に結晶している。


 アンリ・カルティエ・ブレッソンエリオット・アーウィットといった、マグナム・フォトのメンバーのうちでもフランス出身の写真家や、ハンガリー出身写真家のブラッサイアンドレ・ケルテス(因みにマグナムのロバート・キャパハンガリー出身)などの、さりげない風景を写真家のセンスで切り取ったような作風がとりわけ好きだ。戦争写真の一部にも、「作り手」の視線次第で心を捉える作品があるし(ワーナー・ビショップや日本人写真家、三木淳なんかが好き)、ユージン・スミスセバスチャン・サルガド(この人もマグナムのメンバーとなる)へと繋がって行く社会派の作品には報道としての力強さが漲っている。


 でも、やっぱり一番惹かれるのは、街角で、ふとした一瞬の表情を切り取ったようなストリート・ショット。均整の取れた決め込まれた構図の中で、散在する人々が巧まずして構成を完成させているような、ウィットに富んだ作品も好きだ。
 ドアノーの作品の中では、主として1950年代のパリを舞台とする作品群に惹かれた。


 こういう“そこにいるかのような”感覚に引き込まれる、美しいモノクロプリントの作品が一枚でも撮れたら、引き伸ばして部屋に掛けたいものだ、と、こういう写真展を見るといつも思う。久しくお蔵入りのライカの埃を払って、シャッターを切ってみようかな……。