石楠花の室生寺、牡丹の長谷寺へ



 前夜、早めに就寝し、疲労回復に努める。が、蓄積疲労は頑固に居座っている。しかし! 尚も奈良通い――もはや何かに憑かれたとしか言いようがない……。
 今日の目的地は室生寺長谷寺。時間に余裕があれば桜井の安倍文殊院にも立ち寄りたかったのだが、結論から言うと「全然ムリでした、体力的に」。


 室生寺から長谷寺への移動にどのくらい掛かるか読めなかったのと、帰りは疲労困憊もあって、初めて往復とも特急を利用する。いつものように地下鉄から乗り入れず、バスで直接京都駅へ出て大和八木まで。大阪線の急行に乗り換えて、室生口大野に降り立った。駅前には接続するバスが待っていて、タイムロスなく移動。
 しかしバス停からお寺までが半端なく遠かった……。GW中は普段のバス停よりずっと遠い所に仮のターミナルを設置しているためだ。車が多くてUターンしづらいことを想定したのかもしれないが、願わくば時間待ちなどはそちらで行い、人を乗せるのは通常のバス停を使ってほしいところ。


 さて、赤い太鼓橋を渡って新しい山門をくぐる。境内では今まさに石楠花が見頃である。



 金堂には瞠目に値する仏像が並んでいる。本尊釈迦如来立像をはじめとして、薬師如来地蔵菩薩文殊菩薩、十一面観音が居並び、その前を十二神将が護っている様は豪華ですらある。ゆっくり拝観したいが、外縁部を伝いながら譲り合わせて流れていかなければならない。一度では立ち去り難く、奥の院から戻ってから再度お堂に上がり、目に焼き付けた。
 弥勒堂には弥勒菩薩立像と、客仏ながらどっしりとした存在感がさすがの釈迦如来坐像が安置されている。この像は戦前、初めて外遊(海外展示)した日本の仏像だとか。



 そして、注意を促してくれる人もないまま、無謀にも奥の院へ。400段を数える階段登りはキツイのみならず、石段の奥行が浅いうえ踊り場もないため、高所恐怖症気味の人間にとってはいささか怖い。汗みどろになって奥の院へ到着。風は涼しく爽やかではあったものの、繁茂した木々に遮られて眺望はほとんどなく、どうしても奥の院御朱印を、という人以外は無理に登らなくても良さそう。



 境内で忘れてならないのが、屋外に立つものとしては最小という国宝の五重塔。平成10年の台風で損傷したものの、12年に修復落慶。また、金堂手前には参拝者を静かに見守る軍荼利明王の石仏が佇む。




 室生寺から次の目的地長谷寺へは、GW中バスが運行されている。所要時間は30分ほどだが、このバス停からお寺までがまた、物凄く遠いのである。「長谷寺」のバス停を標榜するのは気が引けるだろう、というくらい離れている。気温はますます上昇し、流れる汗を拭いながら重い足を運ぶ。ようやく辿りついた総受付のところで一休みし、持参したおにぎりで昼食を済ませると少し気力が戻った。いよいよ長谷の観音様との対面だ。


 この時期本尊の特別拝観と御影大画軸の特別開帳、寺宝展が併催されており、共通拝観券は1,700円(!)。下写真は参拝の記念品として下付されたお札と御影、それに結縁の五色線で作られた腕輪一式。



 

 仁王門をくぐり、名物の登廊を上がる。屋根付きの美しい回廊は涼やかで、一段一段の高さも浅く、満開の牡丹を愛でながらの登りなのでさほど辛くはない。




 ご内陣での十一面観世音菩薩様との対面は、想像以上の素晴らしい体験だった。数多の人々の願いを受け止め続けたお御足は滑らかに光り、見上げれば三丈三尺という威容が迫る。しかしお顔はどこまでも柔和で、心をほぐすかのようであった。
  

 長谷寺は、一言でいえば寺院のテーマパークだ。登廊を序章に、“お御足なで”で知られる内陣に入ってのご本尊特別拝観の前には、塗香をいただいて浄めをし、結縁の証として五色線の腕輪を嵌めてもらい、ひとりひとり観音様の聖水でお加持まで受ける。この“対面へのプロローグ”がいやがおうにも気持ちを高ぶらせ、期待感を盛り上げるのである。このプロセスは見事に拝観のイベント性を高め、あたかも本堂がパビリオンになったかのような錯覚さえ起こさせる。境内にはたくさんの僧侶が立って案内をし、必要に応じて解説もしてくれる。そこここで法話も催されている。手際良く境内を巡り、参拝者を飽きさせないシステムが調えられているのである。


 話がやや理屈っぽくなった。本題に戻ろう。
 十一面観音の梵字の読みは「キャ」で、漢字を充てると「悲」――「かなしい」という意味ではなく、慈悲の「悲」である。本堂の号「大悲閣」はそこから来ていると聞く。



 因みに御影大画軸開帳の会場である本坊のトイレがとても清潔で気持ち良かった。こちらでの拝観前にも塗香での浄めを行う。


 「長谷寺」というアミューズメントパークを堪能した思いで帰途に着く。
 余談ながら、このエリアには草餅屋が多い。連れは室生で2個、長谷で3個買い、実は前日近所の餅屋で買い込んだ草餅を朝2個を食べているので、この日だけで計7個の草餅を食べたことになる。物好きである。。また室生の参道ではかねてより気になっていたという「貴醸酒」を見つけ、旅もまだ半ばだというのに早々にゲット。重い酒瓶を携えての行軍となったのであった。やはり物好きである。。。


 暑い一日だった。持参したポットのお茶は早々に無くなり、京都に帰り着くまでに2本、冷たいジュースを飲み干した。そして、山寺巡りですっかり疲弊した身体にさらなる追い打ちを掛けたのが、近鉄長谷駅までの道。最初のうちはダラダラの下りなのだが、終盤かなりの昇り坂になり、最後は胸突きの階段登り! 寺の出口で「駅まで2,000円」と表示したタクシーを見かけ、『ボリ過ぎだろう』と話したのだが、この距離にしてこの急坂を鑑みれば2,000円も惜しくない?