聖林寺・安倍文殊院・高松塚&キトラ壁画見学



 今日は事前申し込みした高松塚古墳壁画修理作業室見学の日。そしてキトラ古墳の、朱雀を含む四神が揃い踏みする公開の初日である。
 キトラの方は「5時間待ちも想定」という情報に二の足を踏み、高松塚での状況次第ではパスすることも覚悟の上で、いざ出陣。


 101系統の急行バス京都駅行きは、始発が千本今出川を7時29分発。いつものようにコンビニでおにぎりを仕入れると、往路は時間が惜しいので特急を利用して大和八木まで行き、乗り換えて桜井へ。
 最初の目的地、聖林寺へのバスは本数が少ないが、鉄道と連絡しているのか駅前にちょうど停まっていて、タイムロスなく向かうことができた。



 この寺は国宝の十一面観音菩薩像で名高い。本堂に参らせていただいた後、観音堂で初の対面。参拝客はもうひと組だけで、そのお二人が去られた後は静かに観音様と向き合うことができた。やや厳めしいお顔立ちながら、指の表情はしなやかで優美。何よりその肢体のバランスが素晴らしいと言われる――。
 本堂脇の阿弥陀三尊像は、確か脇侍が聖観音菩薩と地蔵菩薩という組み合わせで、その聖観音が大層美しかった。





 ここから次なる目的地、安倍文殊院を経て桜井の駅までは徒歩だ。
 輝くような晴天の下、爽やかな5月の風を満身に受けて歩く。


 
 途中、西内酒造場に立ち寄り、例によって午前中から利き酒。。先般、室生寺の参道で購入し、大いに気に行った貴醸酒と、今回は新たに貴醸酒で仕込んだ“三塁醸酒”、さらに古代米の黒米で仕込んだという酒を購入。またしても旅の序盤から重い荷物を背負い込むことになった。


 20分少々歩いただろうか、安倍寺跡を横に見ると、間もなく安倍文殊院の参道である。



 安倍氏所縁のこの寺は東大寺の別格本山であり、日本三大文殊のひとつとしても知られる。檀家はなく、祈祷で成り立っている寺である。文殊様だけに、合格祈願や、ぼけ封じの祈祷でも有名だ。
 受付を済ませると、まず一服、茶菓をいただく。その後本堂で説明を受け、順に内陣を巡る。
 本来唐獅子の上に乗っておられる文殊師利菩薩像は、現在修復のため獅子から降り、光背も外したお姿である。獅子に乗ると全高が7メートルにも及ぶというから、お顔をじっくり拝見するには今が好機とも言える。
 想像より凛々しく、美しいお顔立ちだ。優填王、須菩提維摩居士、そして童形の善財童子を従えた渡海文殊様ご一行の様子は、一幅の絵を見るかのようだった。




(上の写真は清明堂の展望台から見た二上山。) 


 午前中の予定はこの二寺のみ。安倍文殊院から桜井の駅までは歩いて20分強の道程で、バスに乗らなかったことをやや後悔……。
 高松塚壁画の見学は13時35分からである。時刻はまだ12時前、十分余裕がある。大和八木まで戻り、近鉄で飛鳥へ。10分程歩いて飛鳥歴史公園館の見学者用の受付場所まで行き、すぐ脇のベンチのある休憩所でゆっくり昼食を取りながら暫し休憩。



 同時刻の見学者は全部で4組9名のみだった。まず10分程のレクチャーがあり、壁画の劣化がなぜ起きたのか、修復はどのように行われてきたのか、といったことについて説明を受ける。昭和と平成のカビの大発生の原因を聞いて、対策が後手後手に回ったことに愕然とさせられた。空調機を付けたは良いが、そこから発せられる熱が石室に伝わって環境を変化させたこと、防護服を着用せずに作業したことによる汚染、地震等でできた亀裂から侵入した虫が温床となったこと、崩落を止められなかった天井の土に菌が含まれていたこと……。
 そして修復作業室へと案内され、見学が始まった。


 修復作業室には解体された石室の石材が並べられている。壁画が残されているブロックは全て絵を上にして平置きされ、四神のうち失われた朱雀以外といわゆる飛鳥美人が、見学者用の窓から見て手前に来るように配置されている。部屋の中央や反対側に置かれた星宿図や男子群像などは見ることができない。手前に置かれた壁画についても、見学者用の通路はさして高い位置に設置されているわけではないので、正対するのではなく斜めから見ることになる。しかも窓から壁画までは距離があり、損傷が激しいこともあって裸眼では見え辛い部分も多いので、双眼鏡が大いに役に立った。
 見学時間は10分と短いながら、少人数で3ヶ所ある窓に分散して見られるのと、文化庁職員が2人付くので説明を聞きながら質問もでき、それなりに充足感はあったといってよい。



 作業室裏手の池は杜若が彩りを添え、静かで心地良い。
 歴史公園館の方に戻ると、ちょうど飛鳥資料館方面へのバスが到着した所。キトラの混雑状況は分からないながら、ひとまず行ってみることにしてバスに乗り込んだ。
 到着した私たちを待っていたのは……


 


 あまりの混雑予想に初日は警戒した向きも多かったのか、待ち時間なしで入れるという想定外の成り行きに。
 ロッカーもガラガラ、内部は入り口付近の展示室こそ若干込み合っていたものの、肝心の四神展示はひとつの壁画を囲む人がせいぜい4〜5人程度。キトラは高松塚より一回り小さな古墳で、壁画自体小さいうえ、四神の描かれている部分のみを剥ぎ取って修復しているので本体が薄くて小さい。それをガラスケースに入れて、上から覗き込むような形で3方から見られるように設置してあるため、じっくり観察できるのがありがたい。


 ゆっくり見学し、資料館向かいのバスターミナル横の茶屋で暫し休憩。橿原神宮前行きのバスに乗り、大和八木に戻って、帰路は始発なので急行を待ってのんびり戻った。若干バスや列車の接続が悪かったため時間が掛かったが、19時過ぎには自宅に帰着。


 今回は近鉄の「飛鳥めぐりフリーきっぷ」を購入した。京都から1,880円で、大和八木から東へは桜井、南へは壷坂山までがフリー区間になっている。大和八木→桜井、桜井→飛鳥、樫原神宮前→大和八木とフリー区間内で3度乗っているので元は取れたはず。また、特典として数か所の拝観料等が割引料金となり、安倍文殊院で1割(70円)、飛鳥資料館で100円の割引を受けている。
 700円ほどの割増でバスを含むタイプもあり、こちらにしても良かった。飛鳥エリアのバスは案外運賃が高い。桜井→聖林寺、高松塚→飛鳥資料館、飛鳥資料館→樫原神宮前と3度乗って、都合790円掛かっている。


 奈良通いももう何度目になるだろう……。この気候の良い時期を逃すまいとするかのように、よくあちこちと見て回ったものだ。まだもうちょっと、周っておきたい所がある。そろそろペースダウンして、あとはゆっくりと歩こうと思っている。