幻の名店『ニュー万長』へ


 普段より早く帰宅した連れ合いの気まぐれから、何気なく外食しようかと腰を上げた今夜。ダメ元で『ニュー万長』行ってみるか! ということになった。ごく一部の京都本には紹介もあるものの、基本的に一見さんお断りのため電話番号や詳しい住所などは掲載されていない(といってもインターネットにはちゃんと載っているんだから、昨今のネット事情はコワイ……)。連れは先夜のホルモン焼き屋『江畑』に来る途中、偶然見つけたという。といっても店は案外分かりやすい場所にあり、あまりの“さりげなさ”に、ここが焼肉好きを唸らせる店だとは気付かず通り過ぎそうだ。


 カメラを忘れたので残念ながら写真はなし。
 暖簾を潜り、引き戸を開けると、青いビロード張りのスツールが並んだカウンターが一本。右手奥には小振りな座敷もある。誰〜もいない。連れが声を掛けてしばし。。出てきたおばちゃんが「まだ開けてへんのんよ……」と言い、「あ、そうですか、じゃ……」と引き下ろうとした時、暖簾を押し上げたおばちゃんが私がいることに気付き、「7時位やったらできるんやけど、、、近くの人? (入って待ってる??……《この部分は言外のジェスチャーと目の色で》)」と引き止めてくれた。それじゃ、と入らせてもらい、テレビを見ながら待つことしばし。おばちゃん、「雨が降る言ようし、今日は開けんとこかぁ思いよった……」。おいおい本当か??
 やがて他の客も二組ほどやってきて、ぼちぼちと支度を進めるおばちゃんが、生ビールやらアテになりそうなお漬物やらナムルやらを出してくれる。さらにしばし。。
 いつの間にやら品の良いおじちゃんも店に顔を出し、コンロの支度をしたり火加減を見たりして、二人体制になる。
 そして、その時はやってきた……


 紹介本によれば「生でも行ける」というほどの美しい(!)カルビ(ここではただ「肉」と呼ぶ)。炙って口に入れた途端にとろける食感! タレに添えられて出てきた辛味の効いたネギの薬味を載せていただく絶品の味わい!! 2人前の肉があっという間に無くなり、連れは1人前追加。次いで出てきたミノはというと、歯に挟まったりゴムの様になって“ゴックン”できないのが苦手だった私も、すんなり行ける歯ごたえの爽やかさ!!!(今日はエクスクラメーションマーク(!)の大盤振る舞いだ……。)
 やがて「今日、大根炊いたんやけど、食べる?」と出してくれた、大根と色こんにゃくを牛筋とともに煮込んだ煮物の関西風の味わいの深かったこと……。もっちりと美味な白米のご飯には、山椒のピリッと効いたお手製の昆布の佃煮。大満足で店を後にしたのだった。


 連れが呟いた「今日、鬱憤が溜まって限界状態だったんだけど、あの肉とおばちゃんのお蔭で、なんだか晴れた気がするわ。」 それほどに癒し効果の高い焼肉と気さくなおばちゃんの気配り……。先般、京都の焼肉屋の極私的ランキングを書いたけど、ここはトップに躍り出ること間違いなしだ。そして年配のおばちゃん、おじちゃんが地域密着で、二人で切り盛りしている様子を見ると、外からの客に荒らされたくはないのも頷ける。“一見さんお断り”というのは、常連しか入れないというのではなく、そういう意味なんだろうな、と納得。
 土曜にはこれまた絶品と言われる手製の「どぶ(マッコリ)」や、他の肉も入荷するというから、今度はぜひ土曜に再訪しよう、と話している。