御蔭祭の切芝神事



 この数日というもの、雨模様の日が続いている。加えて昨夜来気温がぐっと下がり、今日は終日肌寒い一日となった。
 今日は妹の誕生日。何もしてはやれないけれど、メールでお祝いの言葉を贈る。連休も週末も返上で仕事、という人生の荒行に真っ向から取り組んでいる妹が、せめてひととき和んでくれれば、と思う……。


 この日、15日の葵祭に向けて、御蔭山に降臨された下鴨神社の御祭神「荒御魂(あらみたま……新しく生まれた神霊)」を本社へ迎える神事、御蔭祭が催行された。行列は朝から御蔭に向かい、神馬にお移りいただいた荒御霊を下鴨神社へとお連れする。15時過ぎに糺の森に着いた一行は河合神社で隊列を調え、雅楽の音と共に粛々と進んで、参道中程に作られた祭場「切芝」に於いて「切芝神事」が行われる。






 神馬が中央の幄(あく……帳の意)に繋がれると、顔だけ出して両側の幕が降ろされる。神馬を通して荒御霊に神事をご覧いただくのだそうだ。
 まず奉行から琴が手渡され、暫しの雅楽演奏の後、東游(あずまあそび)と呼ばれる舞楽が奉納される。



 舞は2度に舞われる。2度目は衣の袖口を折り返し、朱の布を見せてのパフォーマンスだ。




 東游の後、神前に進み出た奏者によって雅楽と歌の奏上が行われる。次いで琴が奉行に戻され、童子に杖が渡されて、切芝神事は終わる。



 行列は再び隊列を組み、本社へ。






 荒御霊に馬からお社にお移りいただき、しかる後に執り行われる「本宮の儀」は非公開である。



 古式ゆかしく執り行われる神事の雰囲気だけでも、少しは伝わっただろうか……。


 切芝神事を見終えると、205系統のバスで一路四条河原町へ。錦市場内の有次を訪ね、懸案だった魚の骨抜きと柳刃を新調した。
 骨抜きにも、一般的な毛抜きの形をした「関東風」と、指で摘む所が張り出している「関西風」とあり、「関西風」にも大きさが2種類。手に合うもので良いそうだ。柳刃は刃渡りが短めで、手への負担が少ない物をチョイス。名入れしてもらい、ひとしきり手入れ法のご教示をいただく。ついでに、かねてより気になっていた料理教室の案内リスト登録の手続きも済ませた。


 明日は年一度の人間ドック。0時以降は水分を摂るのも禁止なので、早々に寝なければ。

今宮祭神幸祭と大徳寺塔頭特別公開



 連休最終日。今日はさすがに休息日ということで、朝から家事を片付ける。シーツとタオルケットを洗い、ベッドパットを叩いて寝具の手入れ。連日の奈良行きで酷使した革靴や、普段よく履いている通勤靴も磨かなきゃ、と準備をして声を掛けたら、連れが機嫌良く作業を始めてくれた(年末に手ほどきをした甲斐があった)。
 案外さっさと片付いて、午前中に終了。お天気も良いことだし、散歩がてら、大徳寺で開催中の非公開文化財特別公開に出掛けることにした。


 まずは腹拵え。久しぶりに西陣の蕎麦の名店、「にこら」に立ち寄る。ここを訪れるときは若干の覚悟が必要だ。ゆっくり過ごす人が多くて回転が悪いのはいつものこと。客あしらいの手際も決して良いとはいえず、さらに単価が高い……。それでも、こだわりの10割蕎麦は確かに美味しく、杏仁豆腐は絶品なのだ。


 智恵光院五辻上ルの「にこら」から千本今出川まで戻り、206系統で大徳寺前へ。下車すると、絶妙のタイミングで今宮際の神幸祭に遭遇! 大徳寺門前のここ、北大路大宮の交差点で行列は右折して大宮通へ入る。その絶好のロケーションでしばし見物。気温30度を超えたこの日、人も牛車を牽く牛も大変だ。







 行列を見送ると、まずは大徳寺本坊へと向かった。次いで真珠庵、玉林院と巡る。



 非公開文化財特別公開は、(財)京都古文化保存協会が毎年春と秋に開催している。内部に入ると文化財保護のため、全ての手荷物を預けて観覧する。この手荷物管理や、要所要所で行われる解説を担当していたのは、立命館同志社京都産業大学の歴史や古文化関連の部に在籍している学生さんたちだ。


 禅寺のこと、建築と庭、それに若干の障壁画くらいしか見るものはなく、それだけに建物内部の空間に身を置き、石庭にゆっくり向き合って禅の心に触れたいところ。しかし解説を聞いては先に進み、次の担当のスタッフがバトンタッチ式に解説を始めるというパターンのため、自分たちのペースで巡ることが難しいのが残念。


 因みに拝観料は「各々」800円(!)。塔頭自体はわりと小振りなところが多いので、くるっと廻って若干の説明を聞いたら終わってしまう。今日は“この際だから”と大仙院にも立ち寄り、抹茶もいただいたので、しめて1人3,000円である。文化財保護のための負担とはいうものの、このご時世、果たして「応分」と言えるのか、やや疑問。


石楠花の室生寺、牡丹の長谷寺へ



 前夜、早めに就寝し、疲労回復に努める。が、蓄積疲労は頑固に居座っている。しかし! 尚も奈良通い――もはや何かに憑かれたとしか言いようがない……。
 今日の目的地は室生寺長谷寺。時間に余裕があれば桜井の安倍文殊院にも立ち寄りたかったのだが、結論から言うと「全然ムリでした、体力的に」。


 室生寺から長谷寺への移動にどのくらい掛かるか読めなかったのと、帰りは疲労困憊もあって、初めて往復とも特急を利用する。いつものように地下鉄から乗り入れず、バスで直接京都駅へ出て大和八木まで。大阪線の急行に乗り換えて、室生口大野に降り立った。駅前には接続するバスが待っていて、タイムロスなく移動。
 しかしバス停からお寺までが半端なく遠かった……。GW中は普段のバス停よりずっと遠い所に仮のターミナルを設置しているためだ。車が多くてUターンしづらいことを想定したのかもしれないが、願わくば時間待ちなどはそちらで行い、人を乗せるのは通常のバス停を使ってほしいところ。


 さて、赤い太鼓橋を渡って新しい山門をくぐる。境内では今まさに石楠花が見頃である。



 金堂には瞠目に値する仏像が並んでいる。本尊釈迦如来立像をはじめとして、薬師如来地蔵菩薩文殊菩薩、十一面観音が居並び、その前を十二神将が護っている様は豪華ですらある。ゆっくり拝観したいが、外縁部を伝いながら譲り合わせて流れていかなければならない。一度では立ち去り難く、奥の院から戻ってから再度お堂に上がり、目に焼き付けた。
 弥勒堂には弥勒菩薩立像と、客仏ながらどっしりとした存在感がさすがの釈迦如来坐像が安置されている。この像は戦前、初めて外遊(海外展示)した日本の仏像だとか。



 そして、注意を促してくれる人もないまま、無謀にも奥の院へ。400段を数える階段登りはキツイのみならず、石段の奥行が浅いうえ踊り場もないため、高所恐怖症気味の人間にとってはいささか怖い。汗みどろになって奥の院へ到着。風は涼しく爽やかではあったものの、繁茂した木々に遮られて眺望はほとんどなく、どうしても奥の院御朱印を、という人以外は無理に登らなくても良さそう。



 境内で忘れてならないのが、屋外に立つものとしては最小という国宝の五重塔。平成10年の台風で損傷したものの、12年に修復落慶。また、金堂手前には参拝者を静かに見守る軍荼利明王の石仏が佇む。




 室生寺から次の目的地長谷寺へは、GW中バスが運行されている。所要時間は30分ほどだが、このバス停からお寺までがまた、物凄く遠いのである。「長谷寺」のバス停を標榜するのは気が引けるだろう、というくらい離れている。気温はますます上昇し、流れる汗を拭いながら重い足を運ぶ。ようやく辿りついた総受付のところで一休みし、持参したおにぎりで昼食を済ませると少し気力が戻った。いよいよ長谷の観音様との対面だ。


 この時期本尊の特別拝観と御影大画軸の特別開帳、寺宝展が併催されており、共通拝観券は1,700円(!)。下写真は参拝の記念品として下付されたお札と御影、それに結縁の五色線で作られた腕輪一式。



 

 仁王門をくぐり、名物の登廊を上がる。屋根付きの美しい回廊は涼やかで、一段一段の高さも浅く、満開の牡丹を愛でながらの登りなのでさほど辛くはない。




 ご内陣での十一面観世音菩薩様との対面は、想像以上の素晴らしい体験だった。数多の人々の願いを受け止め続けたお御足は滑らかに光り、見上げれば三丈三尺という威容が迫る。しかしお顔はどこまでも柔和で、心をほぐすかのようであった。
  

 長谷寺は、一言でいえば寺院のテーマパークだ。登廊を序章に、“お御足なで”で知られる内陣に入ってのご本尊特別拝観の前には、塗香をいただいて浄めをし、結縁の証として五色線の腕輪を嵌めてもらい、ひとりひとり観音様の聖水でお加持まで受ける。この“対面へのプロローグ”がいやがおうにも気持ちを高ぶらせ、期待感を盛り上げるのである。このプロセスは見事に拝観のイベント性を高め、あたかも本堂がパビリオンになったかのような錯覚さえ起こさせる。境内にはたくさんの僧侶が立って案内をし、必要に応じて解説もしてくれる。そこここで法話も催されている。手際良く境内を巡り、参拝者を飽きさせないシステムが調えられているのである。


 話がやや理屈っぽくなった。本題に戻ろう。
 十一面観音の梵字の読みは「キャ」で、漢字を充てると「悲」――「かなしい」という意味ではなく、慈悲の「悲」である。本堂の号「大悲閣」はそこから来ていると聞く。



 因みに御影大画軸開帳の会場である本坊のトイレがとても清潔で気持ち良かった。こちらでの拝観前にも塗香での浄めを行う。


 「長谷寺」というアミューズメントパークを堪能した思いで帰途に着く。
 余談ながら、このエリアには草餅屋が多い。連れは室生で2個、長谷で3個買い、実は前日近所の餅屋で買い込んだ草餅を朝2個を食べているので、この日だけで計7個の草餅を食べたことになる。物好きである。。また室生の参道ではかねてより気になっていたという「貴醸酒」を見つけ、旅もまだ半ばだというのに早々にゲット。重い酒瓶を携えての行軍となったのであった。やはり物好きである。。。


 暑い一日だった。持参したポットのお茶は早々に無くなり、京都に帰り着くまでに2本、冷たいジュースを飲み干した。そして、山寺巡りですっかり疲弊した身体にさらなる追い打ちを掛けたのが、近鉄長谷駅までの道。最初のうちはダラダラの下りなのだが、終盤かなりの昇り坂になり、最後は胸突きの階段登り! 寺の出口で「駅まで2,000円」と表示したタクシーを見かけ、『ボリ過ぎだろう』と話したのだが、この距離にしてこの急坂を鑑みれば2,000円も惜しくない?


 

『大遣唐使展』を観る



 前日の飛鳥自転車周遊の疲れが抜けきれず。よほど休もうかと思ったものの外は良いお天気。勿体なくて、身体を引き摺るようにして(そこまでしなくても、だけど。。)再び奈良へ。お目当ては国立奈良博物館で開催中の『大遣唐使展』だ。
 余力があれば東大寺戒壇堂に廻りたかったのだが、時間は中途半端だし、登大路は渋滞してバスは使えないしで、無理はしないことにした。夏に五刧院の五刧思惟阿弥陀仏坐像の開帳と抱き合わせにするか、7月いっぱいまでの俊乗堂開扉とセットにするか、秋のコスモスの時期に般若寺の寺宝展と組み合わせるか、悩ましい。。


 さて、晴天の連休真っ只中ともなれば、奈良の人出の多さは想像に難くない。東大寺方面に流れる人の波に乗り、奈良公園の一角で開催中の手造りアート&クラフト展をしばらくプラプラと冷やかしてから、おもむろに会場へと向かう。外気温がグングン上がったこんな日は、エアコンの効いた屋内での展覧会には恰好。先だってのNHKドラマ『大仏開眼』や遷都1300年祭との絡みもあり、さぞかし混雑していることと覚悟して出向いたところ、意外にも並ばずに入れる状況。やはり“遣唐使”というキーワードはちょっと地味なのかな。。
 

 しかし展示品は実に見応えがあった。遣唐使の歴史と、入唐して帰国した人々が持ち帰った文物やその後の活躍を経糸に、所縁の品々、往時の唐の文物など、幅広い一級資料を一堂に集めての展示は実に多彩。呼び物の8世紀唐時代の観音菩薩像(ペンシルバニア大学博物館蔵)と薬師寺聖観音菩薩立像の並列展示や、ボストン美術館から出展された「吉備大臣入唐絵巻」のみならず、数多の仏像や仏龕、経典その他の文書類、遺物の数々には圧倒される。
 音声ガイドを使う習慣がないので自分たちのペースで流してしまったが、こんな展示こそ音声ガイドを使って基本情報を耳から入れながら観ると良かったか、と、後からちょっと後悔。6月20日まで開催されているから、再度観に行く?!

飛鳥路を行く




 晴天が続いている。今日もこの上ないお天気に恵まれ、絶好の行楽日和となった。日中は気温も上がり、着込んで行ったベストやコート、ストールは無用の長物に。
 朝8時半に自宅を出て、竹田で近鉄へ乗り換え、橿原神宮前で吉野行きに飛び乗って飛鳥に降り立ったのが10時半。レンタサイクル(半日ひとり1,000円)の手配をし、準備を調えて11時前に駅前を出発した。
 今日の飛鳥は人、人、人……。話に聞けば、西大寺平城宮跡方面も混雑を極めたとか。


 まずは石造物群から廻り始め、猿石・鬼の雪隠・鬼の俎板・亀石・石舞台古墳を経て橘寺へと進んだ。写真は橘寺の二面石や後半に廻った酒船石・亀型石像群を含めて石物一覧。










 橘寺では観音堂の六臂如意輪観音像(藤原時代)と、記憶が曖昧ながら確か往生院のご本尊である阿弥陀三尊だっただろうか、古いものではないのだが、その美しさが印象に残った。




 この時期、牡丹と石楠花がまさに見頃に。岡寺の奥の院への参道沿いは、一面の石楠花が見事。






 岡寺では、わが国最大にして最古の塑像観音と言われるご本尊の如意輪観音像の迫力もさることながら、記憶が定かでないのだが、確か美しい釈迦三尊像がおわしたような。







 飛鳥寺ではご本尊、飛鳥大仏に30年振りの再会、しばし対面。また、裏手にお祀りされている仏像の中にひっそりと佇む、前傾姿勢の勢至菩薩様がとても美しかった。
飛鳥寺では皆盛んに写真を撮っていた。お祀りされている仏像を写真に収めるのはいささか抵抗があったが、勇気を出して1枚ずつ撮らせていただいた。)






 最後に岡寺の石窟で出会った石仏と、飛鳥寺の石仏の静かな佇まいを……。





 帰路、飛鳥駅へ向かう途上、天武・持統天皇陵で古の都人に思いを馳せる。通りすがりに造り酒屋も見つけ、例の如くに利き酒して生酒を一本仕込んだのは言うまでもない。
 

 15時30分過ぎに飛鳥駅前に戻り、喫茶「コッコロ」で一休み。今日も強い陽射しの下、盛りだくさんの一日でいささかお疲れ。。帰りは橿原神宮前から京都行きに座ると、すっかり眠り込んでしまった。18時30分ごろ無事自宅に帰着。
 予報では明日も晴れとか。元気があれば遣唐使展に出掛けたいところだが、果たして起きられるかどうか。。




【メモ】
(1) 明日香は自転車移動が便利だが、平坦に見えて意外とアップダウンがある。だらだらの昇りや下り、急坂も。なれない貸自転車での移動には充分注意が必要。また、陽射しを遮る木陰などがほとんどないため、結構体力を消耗する。紫外線対策、帽子・手袋・サングラスなど、適宜準備しておくに越したことはない。

(2) 石舞台古墳近くではソフトクリームが美味しいが、目を引く古代米のソフトは案外新鮮味に乏しい。その中で美味しかったのは、あすかルビーという特産の苺を使ったソフト。

(3) あすかルビーは、岡寺の入り口近くの無人販売所や飛鳥駅前の物産館でも買える。また、今の時期、西村農場では苺狩りも。

(4) 古代のチーズとも言われる『蘇』は、飛鳥寺前の土産物店「大佛屋」での扱い量が多いと聞いた。しかし今日ばかりはそこでも売り切れ。狙っている向きは、早目にゲットしておくべし。。

(5) 店名は忘れたが、天理教の岡大教会斜向かい辺りに新しくできた和菓子屋さんでは、その場で頂く場合、お菓子の値段だけでお茶をサービスしてくれる。連れは2個、私は1個頂いて、しめて275円。これほど安い喫茶は初めて! と、連れの関心することしきり。。

千本ゑんま堂大念仏狂言へ



 今日はさながら“片付け日”。連れ合いは衣替えをし、散髪に出掛け、連休明けのゴルフの準備をし、ついでに壊れたオーディオのアンプの入れ替えまで済ませ、清々した模様。私はというと、朝からウールのセーターその他を手洗いし、ポイント5倍デーで久しぶりに生協へ買い出しに出掛け……と、まあ夫婦それぞれにいろいろ用を片付けた次第。
 

 一段落ついたところで、ニュー万長が開くのを待って焼肉で腹拵えをし、今日から始まった千本ゑんま堂での大念仏狂言を覗きに出掛けた。
 重ね重ねになるけど、本当、ニュー万長のお肉、絶品です。。お母さん手作りの佃煮を添えた白いご飯がまた美味しくて、ドブ(マッコリ)も最高。ついつい食べ過ぎました。


 ゆっくり食事をしていたら狂言の開始時刻19時を回ってしまい、急いでゑんま堂へ向かう。店は出水の近くなので、中立売から乾隆校前までバスで移動、19時15分頃に到着。舞台では最初の出し物、「閻魔廰」の上演中であった。
 この演目は笛・鉦・太鼓の鳴り物のみで演じられる無言劇。次いで「でんでん虫」、10分程の休憩を挟んで「悪太郎」と、有声での2演目が上演された。



 無言での狂言は、ジェスチャーとパントマイムで大意を推測するに留まるが、有声となると一般の狂言と同様、喜劇としてのエンターテインメント性が抜群に高くなり、見ていて本当に面白い! 「でんでん虫」では子供たちも喜んで一緒に囃し立て、客席からも盛んに笑い声が上がった。また演者の方たちも芸達者。あっという間に1時間半が経ち、賑やかな狂言も幕引きとなった。
 無料でこれだけの芸能に触れられる機会はそうそうない。他の演目もゆっくり観てみたくなった。そして徒歩で帰宅できる地の利にも改めて感謝。


 300席ほど設置された椅子席はほぼ満席。ふと気付くと境内は満開の八重桜と藤、山吹で艶やかに彩られ、まさに春爛漫の風情。一説では足利義満が境内の普賢象桜を愛でたのを機縁として、花の名残を惜しんで行われたとか。そんな由緒も彷彿とさせる、春の宵の一幕であった。



【メモ】
①5月1日・2日が19時〜、3日・4日は13時〜と18時〜の2回上演。
②今年はとりわけ夜間の冷え込みがきつい。上着のみならず、ストールなどもあると良いかも。
③写真はOKながら、フラッシュなどはなるべく自粛したいもの。また撮影する場合は敢えて席に座らず、後ろに立った方が舞台が狙い易い。

法隆寺・中宮寺・法輪寺・法起寺



 雲ひとつない快晴! いつものようにコンビニでおにぎりを仕込み、今日は熱いお茶を入れた水筒も準備して、一路斑鳩を目指した。
 郡山で近鉄からJRに移動(この乗り換えはちょっと無理があった。。)、法隆寺の駅前で自転車を借りる。半日で500円は西大寺の半額だ。


 まずは法隆寺の門をくぐる。



 南大門から臨む西院伽藍。このひと気の無さ! これだけ天気の良い連休初日というのに、どうしたわけか法隆寺は人もまばらな状態。例年GWには金堂に入るのに行列で待ち時間が発生すると聞いていたのだが、見事に肩透かしを食らった気分だ。お蔭でゆっくり伽藍や仏像を拝観することができたが、閑散とした門前はいささか寂しい。皆、平城宮跡での1300年祭に向かったのだろうか……?


 さて、わが国最古の五重塔は、その初層に奈良時代初期に作られたとされる有名な塑像群がある。その保存状態の良いのには驚きだが、奥まっている上に金網越しのため、薄暗くて見づらかったのが残念。


 金堂では止利仏師作と伝わる国宝釈迦三尊像他にゆっくり対面。中央の釈迦三尊と、その左側に控える平安時代のものとされる吉祥天像の美しさに心を奪われる。お堂の中に座って見られる作りなら、長々と見とれてしまうことだろう。



 大宝蔵院では百済観音像に再会。このたおやかな中にも気品溢れるお方を前にして、連れが何やら耳打ち。「なんかね、『酒無くなった、金くれ〜』って言ってるみたいだね」。それは失礼極まるだろう! と思いつつ改めて眺めると、確かにそんな風情。後で聞けば、奈良博に展示されていた際の愛称は、他ならぬ『酒買い観音』だったとか。
 ここでは、他に数少ない檀像として知られる九面観音像や、有名な夢違観音像にもじっくり対面。


 さらにこの時期、「秘宝展」として大宝蔵殿での寺宝公開も行われていて、あまりに多くの仏像や寺宝の数々にすっかり圧倒される。記憶のキャパシティはとっくにオーバーしてしまい、奈良はつくづくスケールが違う、と痛感。何年か後に再訪する際には、感性に訴えて来るものも変わり、また新しい発見があることだろう。



 宝蔵殿を出た所には茶処やトイレ、喫煙所もあり、ここでささっとおにぎりを詰め込んでお茶で流し込んだ。
 東大門を潜って夢殿へ。
 それにしても陽射しの強いこと! 寒冷前線通過後の晴天なので気温はさほど上がらず過ごしやすかったが、砂利道や石畳に反射する光が強くて、サングラスしてくれば良かった、と思ったほど。





 救世観音像に対面。錦の布を覗き込むようにして拝見したお顔はふくよかで神々しい。


 そのまま隣接する中宮寺へと歩を進める。昭和に落慶したお堂周囲には折しも色鮮やかな山吹が満開となり、本尊如意輪観世音菩薩半跏像が静かに坐しておられた。



 さて、法隆寺入り口に駐輪した自転車を取りに戻り、北側に位置する法輪寺を目指す。



 ここには本尊、平安期の十一面観音菩薩立像をはじめとして、法隆寺百済観音像にも良く似た伝・虚空蔵菩薩立像など、見応えのある重文級の仏像が並んでおられる。祭壇の裏側にも通路があり、仏像を裏側からも見られるのが良い。愛用の双眼鏡を駆使し、光背に開けられた窓から十一面様の後ろのお顔、「暴悪大笑面」も確認。。
 国宝だった三重塔は惜しくも落雷で焼失し、昭和になって再建された。



 法輪寺から東へしばらく行った所に法起寺がある。こちらにも重文の十一面様がおられるが、収蔵庫は前面がガラス張りで反射がきつく、拝観しづらいのが難。しかし最古の三重塔が国宝に指定されており、静かな境内は小ぢんまりと居心地が良い。





 斑鳩の里はレンゲが咲き始め、春も爛漫。爽やかな風を受けてのサイクリングには絶好の日和であった。


 


【メモ】
①JRと近鉄の乗り換えはちょっと厄介。無理せず奈良駅でバス移動するか、最初からJRで行った方が楽かも。
斑鳩での自転車移動の際、柵もガードレールもない深い側溝の脇を、後ろから来る車に脅かされながら移動する場面もあり、注意が必要。
法隆寺茶所では無料のお茶がいただけるが、「お食事はご遠慮ください」になっている。本来なら境内を出ないとお弁当は広げられないムード。
法起寺には収蔵庫脇ではなく、境内の中に「写真撮影禁止」などと書かれた立て看板が。これって境内の写真もダメ、ってこと? 皆写真、撮ってましたけど。。